見る者の心を癒やす、神秘的なエネルギーに満ちたハイジュエリー。パンデミックや戦争といった先行き不安定な時代において、ハイジュエリーの力は偉大である。スピリチュアルな役割だけでなく、資産価値としても富裕層の間で需要が高まっているようだ。着用することはもちろんだが、眺めているだけでもその優れた職人技と豊かな創造性が、心の栄養剤のように癒し、活力を与えてくれる。心酔すること間違いなしの、6ブランドのハイジュエラーのコレクションをご紹介。
シャネル(CHANEL)
ツイードをテーマに、2020年に誕生した“ツイード ドゥ シャネル”。今年新たに発表されたコレクションでは、プレシャスストーンによる軽くしなやかなファブリックを作り上げ、 ツイードの表現をより深く追求した。ジュエリーに姿を変えたツイードには、ガブリエル・シャネルが愛した5つのアイコンである、リボン、カメリア、コメット、太陽、ライオンがあしらわれた。
63点のピースの中で最も存在感を放つのが、10.17カラットのペアシェイプのダイヤモンドと、取り外してブローチとしても着用可能なライオンのヘッドが鎮座する、ツイードの魅力を再現したプラストロン(胸飾り)。百獣の王の力強さとは対照的に、ピンクサファイアが彩る可憐なカメリアのテーマや、ほつれたツイードを繊細に表現したホワイトダイヤモンドやパールで構成したリボンがテーマのシリーズは儚く幻想的な印象を与える。
コメットのテーマでは、ミッドナイトブルーのサファイアと漆黒のオニキスを密に配置して星空を描き、太陽のテーマでは燃え盛るような色使いと光を放つデザインで、荘厳さを思わせる眩いばかりのピースを形作った。プレシャスストーンを織り重なる糸のようにつなぎ合わせ、透かし細工を取り入れることで、ツイードのふんわりとした不均一な厚みを再現し、宝石によるファブリックを生み出した。
ブシュロン(BOUCHERON)
「ブシュロン」は“More is More”のテーマを掲げたコレクションで、古典主義に執着するハイジュエリーの世界に画期的なコンテンポラリーの旋風を吹き込んだ。’80年代からインスピレーションを得て、大胆なオブジェクトとポップな色彩、遊び心に満ちただまし絵のアイデアで、ハイジュエリーを通して喜びを爆発させる。
洋服のチェーンモチーフに調和するトロンプルイユの装飾に、キューブが連なるネックレス、マグネットで生地に貼り付くポケットから、球体とブロックからなるヘアアクセサリーとリング、611個のダイヤモンドがセットされた誇張したリボンのヘッドピースまで、見る者の笑顔と好奇心を引き出すような作品の数々。
ハイジュエリーでは使用されることの少ない、アセテートやアルミニウムなどの革新的な素材を用い、見た目だけでなく重量も軽やかに。ハイジュエリーの固定観念を打ち砕く、楽しさと喜びにれあふたコレクションが誕生した。
ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF&ARPELS)
「ヴァン クリーフ&アーペル」は、16世紀の英国に始まり、18~19世紀に最盛期を迎えた“グランドツアー”から想を得たコレクション“ル グラン トゥール”を発表した。グランドツアーは、当時の貴族階級の若者が学業の最後の仕上げとして、個性を磨き、見聞を広げるために、2~3年かけてパリ、フィレンツェ、ローマなどのヨーロッパ大陸の主要都市を肉体的・知的試練を乗り越えながら巡る、壮大な周遊旅行。旅行者たちの足跡を辿り、各地で訪れるヨーロッパ起源の文化的歴史的遺産を再解釈した。
出発点となるロンドンでは、粗いラピスラズリの岩に乗った女神ヘーベーが旅行者を見送る。英国のヴェルサイユ宮殿とも言われる大邸宅、チャッツワース・ハウスにあるカノーヴァの彫刻を想起させる。ダイヤモンドとさまざまな加工を施したゴールドの重ね合わせが敷地内のロックガーデンに見られるごつごつとした岩の質感を表現すると同時に、ピンクサファイアの温かな輝き、ラピスラズリのかすかな煌めきと相まって全体が優美なパビリオンのよう。
アルプス山脈を横断してスイスに足を踏み入れ、高山帯に咲く野生の植物の他に、詩情に満ちた雪山の風景をチョーカーで描写する。中央の1.26カラットのクッションカットのトルマリンは雪に覆われた山々に囲まれた、幻想的なルツェルン湖を彷彿させる。
イタリアへと入ると、ヴェネツィアからローマ、フィレンツェ、ナポリへと旅は続いていく。手首のカーブに合わせた連結構造により、快適な着け心地を実現したブレスレットに、さまざまな宝石で都市の美しい風景を絵画作品のごとく描いた。ヴェネツィアを象徴する水辺や、ローマのバロック建築、ナポリのモザイク画のモチーフをハイジュエリーで妖精のような輝きとともに照らし出した。ヨーロッパの文化的展望に影響を与えた、この通過儀礼の旅を再解釈したコレクションで、古代の風景は着用可能な芸術品として永遠の光をまとって輝き続ける。
ショーメ(CHAUMET)
「ショーメ」の庭を意味する“ル ダルジャン ドゥ ショーメ”と題した新作コレクションは、常に変化する植物の“瞬間”を植物学者の視点で捉え、「ショーメ」らしく写実的に自然の物語を伝える。その魅惑的な庭の入り口では、森と下草の色彩が出迎える。天然パールでヤドリギの珠を表現し、カッティングの異なるダイヤモンドで葉や茎を覆い、ふっくらとしたフォルムを具現化させた。
庭の奥で実っているのが、生命と豊かさの象徴である麦とブドウの木。幾何学的配置で宝石をセッティングし、葉の葉脈だけではなく、葡萄の蔓(つる)までも表現されている。ネックレスには5.18カラット、リングには4.25カラット、イヤリングには合計約6カラットのモザンビーク産のクッションカットルビーが、収穫を間近に控えた豊満な蔓のモチーフの上にたたずむ葉にセットされ、そのルビーの色からも姿の見えない熟れた実を想像させる。
第三章で辿り着くのは、植物が鮮やかな色彩と華やかな開花を誇る場所。ブルー、ピンク、パパラチアサファイアのグラデーションによるパンジー、レッドスピネルのビビッドな色合いが印象的なチューリップ、曲線の細工に匠の技が光るアイリス、イエローサファイアで美しい黄金色のアルムを再現。
最後は、世界の花束でイマジネーションの世界へといざなう。原産地の南アフリカでは愛、ハーモニーの象徴であり、イギリスでは王位や貴族と結びつけられ、ギリシャでは美や純粋さを象徴するアガパンサスの花が、「ショーメ」によってスタイリッシュなハイジュエリーへと変貌を遂げた。マーキースカットとアンペラトリスカットという異なる2種のダイヤモンドの輝きでマグノリアが満開になり、韓国と日本の象徴的な花である菊はブルーサファイアとゴールデンイエローサファイアで優美に咲き誇った。自然との調和の中でつづられる「ショーメ」の物語はこれからも続いていく。
ミキモト(MIKIMOTO)
約4年ぶりにパリ・ヴァンドーム広場に構えるパリ店で新作発表会を開催した「ミキモト」。創業者、御木本幸吉が真珠養殖に成功してから130周年という記念の年である今年、ブランドの原点でもある海へオマージュを捧げたコレクション“Praise to the Sea”を制作した。
パールの流麗な連なりで波打つ海流を首もとに映し出し、ヒトデ、イカ、ウニ、イソギンチャク、イルカといった海の生き物を、真珠とプレシャスストーンでハイジュエリーとして息吹を与える。
シロナガスクジラの親子が寄り添いながら泳ぐ姿をダイナミックに投影したネックレスと、湧き立つような気泡の中で小魚が戯れる姿を表現したピアス、オープンカットで波間に輝く珊瑚の造形美を描いたネックレスは崇高な美しさで見る者の目を奪う。
パールを使用していないこれら作品でも緻密なクラフトマンシップが発揮されている。ゲストは海がもたらす生命のきらめきをまとった作品群に魅了され、日本を代表するトップジュエラーはパリで真珠のような存在感を示した。
ポメラート(POMELLATO)
ミラノで創業した「ポメラート」に、クリエイティブ ディレクターのヴィンチェンツォ・カスタルドが加わり20年目を迎える。今季は原点であるミラノに焦点を合わせ、4章で構成したコレクションを「Ode to Milan(ミラノへの賛歌)」と名付けた。
第1章、高層ビルが織りなす都会のドラマ“Vertical Landscapes”では、ミッドセンチュリーのモダニズムの担い手らの機能的なデザインや、歴史的建築物の傑作の素晴らしさをハイジュエリーに落とし込む。色味の異なるスピネルをグラデーションでつなぎ合わせたネックレスや、流れるように連なるグリーントルマリンとサンザナイトのイヤリングによる力強い建築的なシルエットが、ミラノのモダンな一面を表現。
“Contemporary Heritage”は、ミラノの歴史、特に中世のスフォルツェスコ城が着想源となった。アーカイブのチョーカーを再解釈し、新中世風の“Castello”ネックレスが誕生。ローズゴールドのプレートを、ダイヤモンドがセットされた頑丈なグルメリンクで繋ぎ、28カラットを超えるバゲット、プリンセス、ブリリアントカットのダイヤモンドと、合計29カラットを超える5石のリバースセッティングのルベライトであしらった。
第3章は、スカラ座のクリエイティビティにオマージュを捧げる“Creativity on Stage”。無秩序に配置されたかのようなアシンメトリー ネックレスでスカラ座の緞帳を想起させる“Lirica”ネックレスや、ボディを魅惑的な光の網で包み込む“Sipario”ボディチェーンネックレスを通して、シグネチャーのチェーンも新たな魅力を放つ。
“Terrazza Duomo”では、ドゥオーモの華やかな白大理石のファサードから着想を得た。幾何学的なフォルムがエレガントなイヤリングとブレスレットでは、14世紀のゴシック建築の傑作をタイムレスなジュエリーへと変幻させている。クリエイティビティの源泉であるミラノとの対話により、多彩な魅力を秘めた「ポメラート」も都市とともに進化の道をたどっているようだ。
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