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【レビュー】企画展「繡と織-華麗なる日本染織の世界-」根津美術館で1月28日まで 刺繍と織の厳かで豪華な世界 - 読売新聞社

企画展「ぬいおり 華麗なる日本染織の世界」
会場:根津美術館(東京都港区南青山6-5-1)
会期:2023年12月16日(土)〜2024年1月28日(日)
休館日:月曜日(1月8日は開館)、年末年始(12月25日から1月4日まで)、1月9日(火)
開館時間:午前10時~午後5時
入館料:一般1300円、学生1000円 中学生以下無料 (オンライン日時指定予約制)
アクセス:地下鉄「表参道駅」下車A5出口より徒歩8分
詳しくは館公式サイト

根津美術館のコレクションの礎を築いた初代 根津嘉一郎(1860〜1940年)は、古美術品のみならず多くの染織品も蒐集しゅうしゅうしました。多い時には70点以上の染織品を一度に購入したこともあるそうです。蒐集したものの中には、法隆寺や正倉院伝来の古代の錦や刺繡きれをはじめ、大名家伝来と思われる唐織や縫箔といった豪華な能装束、江戸時代の刺繍や織、染めの技法を駆使した華やかな小袖、幅広い時代にわたる染織品が含まれます。嘉一郎が晩年まで継続的に蒐集したすばらしい染織品の中から、特に織と刺繡の技が光る作品が一堂に展示されています。

いにしえの染織に目をみはる

上代裂 緑地草花文刺繡 奈良時代 8世紀 根津美術館蔵

展示室に入ると飛鳥時代や奈良時代の上代裂じょうだいぎれが並びます。中でも鮮やかで目を惹くのは《上代裂 緑地草花文刺繡》です。三角形の緑の綾地に宝相華を両面に刺繍した裂は、仏教の儀式で用いる幡の最上部を飾った幡頭と推測されます。同じ色の濃淡を段階的に表現する技法を繧繝うんげんといい、奈良から平安時代の寺院の装飾や染織に用いられました。金糸も鮮やかで大変保存状態が良いです。正倉院宝物中の道場幡のなかには本作と同様の色、模様のものがあります。

仏教染織は厳かに

打敷 紫綸子地菊に菱繋向い鶴模様 江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

打敷うちしきは仏前の卓上などに敷き掛ける荘厳しょうごん具の一種で、重要な儀式の際に用いられました。舶来の錦や金襴きんらんなどで制作されたものが多くありますが、近世以降は、女性の小袖を仕立て替えたものも多く見られます。本作は鹿絞りで小袖からの仕立て替えと推測されます。江戸時代・寛文年間には、主として肩から右身頃にかけて大柄な文様を配した寛文小袖が流行しました。こちらもその小袖から打敷に仕立て替えたものと思われます。直線裁ちの着物だから可能な活用といえます。

神護寺経 経帙 平安時代 12世紀 根津美術館蔵

経帙きょうちつは複数の経をひとまとめに巻くためのものです。本作は、黒く着色した竹ひごを、色とりどりの糸で編んで長方形に整え、周囲を錦で縁取りしたもので、かつて「神護寺経」(1185年寄進)に付属していました。色彩も美しく、希少な平安時代の染織品です。個人的には付帯する組紐の色彩と金具に魅かれました。

豪華な能装束

展示風景

展示室に豪華な能装束が並びます。唐織や厚板、厚板唐織などの能装束は織の技法を駆使して作られています。唐織は「唐(中国)風の織物」を意味しますが、室町時代の末頃から日本で織り始められたと考えられています。糸を表面に浮かせて織る技法のため、刺繡のように立体的な仕上りとなります。唐織はまた、小袖形の能装束の名称でもあります。

唐織 紅地青海波に松帆浜辺模様 江戸時代 19世紀 根津美術館蔵

こちらの豪華な唐織は、紅と金の青海波の地紋に、松と苫屋とまや、帆掛け船が鮮やかな織で表現されています。苫屋の屋根と船の帆には雪輪が織り出され、松や帆掛け船とともにおめでたい吉祥模様です。

小袖

小袖は現在の和服の原形です。平安時代に貴族が大袖と呼ばれる装束の下着として着用していたものが、武士の世となり、表着として着られるようなりました。刺繍や織、染の技法の発達とともに大変豪華な小袖が作られました。江戸時代には友禅染の技法が登場し、より細やかな表現ができるようになりました。

単衣 紫絽地御簾に猫草花模様 江戸時代 19世紀 根津美術館蔵

こちらは単衣ひとえの小袖です。夏用のの生地を白い部分は糊防染で染め残し、刺繍で様々な模様を表現しています。「御所解ごしょどき模様」と呼ばれ、風景の中に「源氏物語」を暗示させる文様を配しています。腰より上には、嵐のような強い雨と風に翻る几帳。その奥に見える箏などから『源氏物語』第13帖「明石」を髣髴とさせ、腰より下には、桜と御簾から走り出す猫から第34帖「若菜上」の場面が暗示されています。位の高い武家の女性が着用したもので、文学の教養があることを示すものでもありました。

振袖 綸子地桐鳳凰模様 3領 江戸~明治時代 19世紀 根津美術館蔵

紅・白・黒3色の振袖が並んでいます。こちらは裕福な町人の婚礼衣装と考えられています。江戸時代、武家の婚礼儀式では白無垢、赤無垢、黒地の打掛と着替えていきました。やがて裕福な町人も模倣するようになりました。背と袖に鳳凰、袖の下部と腰から裾にかけて桐を刺繍と鹿の子絞りで表現した豪華なものです。これら3領は紅・白・黒の順に裄と丈が少しずつ大きくなっています。白・紅・黒の順に3領の振袖を重ね着する「三襲みつがさね」も行われましたが、こちらは白のサイズが中間であることから3領を重ねたのではなく、白のみ別に着た可能性も考えられています。
華やかで厳か――清々しい気持ちで良い1年を迎えるのにふさわしい展覧会です。

【ライター・akemi】
きものでミュージアムめぐりがライフワークのきもの好きライター。きもの文化検定1級。Instagramできものコーディネートや展覧会情報を発信中。「繡と織」にちなんで華文の刺繍の小紋に正倉院格子の織の帯をコーディネート。

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