◆真実と虚像の越境者
[評]粂川麻里生(慶応大教授)
「プロレス」を問うことは、おそらく「日本」を問うことだ。他のどの国で、プロレスラーがこんなに議員になっているだろう。虚と実の微妙なバランスの中、一瞬で大観衆を魅了するプロレスのパフォーマンスは、戦後日本社会の中で最も高度かつ重要な表現だった。
本書は豪華な執筆陣が、書名どおり「猪木とは何だったのか」を問うシンポジウム的な新書だ。哲学者の入不二(いりふじ)基義は、暗黙の了解から逸脱して一線を越える「越境のプロレス」だったと述べる。それは戦後力道山が始めて、アントニオ猪木が引き継いだものだ。力道山が無敵の柔道家木村政彦に対して、また力道山の弟子猪木がモハメド・アリに対して仕掛けたことは、本質的に同じことだった。日本のプロレスは真実と虚像がどこかでショッキングな接続をしている魔界なのだ。
本書には興味深い考察やエピソードが並んでいるが、重大なテーマを追うには、やや小著すぎた。時事芸人のプチ鹿島らによる同テーマの書籍と併読すれば、さらに面白いかもしれない。
(集英社新書・924円)
<香山>精神科医
<水道橋博士>芸人
ほか5人。
◆もう1冊
『格闘家 アントニオ猪木 ファイティングアーツを極めた男』木村光一著(金風舎)
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